| font-size L M D S |
|
第三章 ピーチパイに導かれて
ティトレイは半分悔しさで我を忘れながら呟いた。 「・・・全部なくなっちまったな・・・。ピーチパイ。」 「そう・・・ですね・・・。」 さすがのアニーでも食べたかったらしく、残念そうだ。 そして、いつものことでヒルダは食べる専門だ。 ピーチパイを食べられなかったのはものすごく屈辱的だったらしい。 「まだ私全然食べてないわ・・・。」 「俺だって・・・。」 ティトレイは同意した。 声が普段よりかなり小さい。大丈夫だろうか・・・。 サレまで同意した。 「僕だって食べてないよ・・・。」 マオは激しく突っ込んだ。 「いや!サレは4枚食べてたジャン!!何言ってるの!?」 マオは両手を広げ、精一杯広げたところで言った。 「こ〜〜〜んなに大きいピーチパイを!!」 「ヴェイグは7枚食ったがな。12枚あった中でな・・・。」 さり気なくユージーンも残念そうだ。 ユージーンたちは、ヴェイグがいっぱい食べるだろうと思っていたので、直径1mはゆうにあるピーチパイを何枚か用意した。 しかし、せいぜい食べても3枚くらいだと思っていた。 こんなに大きいピーチパイを、食後に食べるのだったら普通の人では4等分しても食べられなさそう だったからだ。 だが先ほど言ったように、ヴェイグはいっぱい食べそうなので、特大サイズを数枚用意し、ほかの数枚は普通の大きさ(ヴェイグ以外の人用)にしてあったのだ。 ・・・しかし、その考えが甘かった。 ヴェイグは、大きいのから食べ始め、最後には普通の大きさのピーチパイ(ヴェイグ以外の人用のピーチパイ)までたいらげてしまった。 そしてサレも負けたくないらしく、特大サイズを3枚食べ、普通のピーチパイを1枚たいらげた。(ヴェイグには断然負けているが) というか最初にヴェイグ達が食堂に来たときに既に普通の大きさの方を食べ始めていたのだ。 アニーは口を開いた。 「それで私たちが普通の大きさのピーチパイを1枚なわけですね・・・。」 そしてヴェイグを見ながら大きなため息をついた。 そのヴェイグは、みんなの傍らで満足そうな顔をしていた。 みんなが暗い顔でヴェイグを睨んでいる中、クレアがみんなを励ました。 「まあまあ皆さん・・・。今度スールズに来て下さいよ。私がご馳走しますから。」 みんなは嬉しくて顔を上げたが最初に口を開いたのはサレだった。 「本当かい!?」 マオは鋭い突っ込みを入れた。 「いや!あんたはおよびじゃないよ!!まだ食べる気!?やめてよ、全部クレアさんのピーチパイも食べる気なの!!?」 サレはもちろん!とでも言いたいかのようないい顔をした。 しかしマオは当然のように無視した。 「それにヴェイグもおよびじゃないな。そしたらもっともっと多く食えるぜ。」 ティトレイはもうこんなのはうんざりだ、という声をあげた。 ヴェイグは何故か驚いた。 そしてわけのわからないことを主張し始めた。 「俺もか!?俺はクレアの家族だ!食べる権利がある!」 「何それ!?めちゃくちゃな理由だぞ!?」 サレは突っ込んで批判をあげた。 「サレは来ないのだろう・・・。」 ユージーンは冷静に突っ込みに突っ込みを入れた。 疑問に疑問は嫌いなくせに、突っ込みに突っ込みはいいらしい。 さすがは隊長。 その時、いきなり食堂の入り口が開いた。 今王の地位にいるワルトゥがひょっこり現れた。 ワルトゥもやっぱり変わらない。 だが少し頭が良くなったような感じもする。 そして隠してはいるが疲れも見える。 やはり王という職業は頭を使うし、疲れるだろうな、とみんなは感じた。 「みなさんお久しぶりですね。しかし何やら騒がしいようですが・・・?」 「陛下、すみません騒いでしまって・・・。」 ユージーンが責任者なので真っ先に謝った。 もっとも、何もユージーンに悪いことはないが。 マオがワルトゥに訴えた。 「陛下〜!ヴェイグとサレでピーチパイほとんど食べちゃったよぉ〜!」 「?特大サイズも合わせて12枚も用意したでしょう?」 ワルトゥは不思議そうに言った。 ヒルダが呆れたというように首を振りながら言った。 「大きいのを合わせてヴェイグが7枚、サレが4枚食べちゃったから、私たちで普通の大きさの、しかもたったの一枚を分け合ったのよ・・・。」 ワルトゥはなんと、と声をあげながら驚いた。 確かに直径1m以上のピーチパイを何個も食べたというのは自分の目で見ないと信じられないのが普通だが。 「!?(あの大きいのをですか!?しょうがない人たちですね全く・・・。)じゃあ、もう一枚残っていたので持ってこさせますね。」 「ありがとうございます。」 アニーとユージーンは陛下に粗相のないように頭を下げ、丁寧に言った。 そしてワルトゥはさっき入ってきた扉からまた出て行った。 ユージーンとマオは敬礼した。 マオも副隊長という自覚を持った軍人生活には慣れてきたのだろう。 だが、やはり子供は子供だ。 ピーチパイをあと1枚食べられるということでぴょんぴょん跳ねながら嬉しがった。 「わ〜い!!」 そしてマオは、ヴェイグの方を向いた。 「ヴェイグ達は食べちゃだめだからね!」 しかし、ヴェイグはワルトゥがピーチパイをもう1枚持ってくるということで、もはや用意をしていた。 それを気づいていないマオにクレアが言ってあげた。 「さっきからお皿とフォークを持って、準備満タンって顔してますけど・・・。」 「ヴェイグはもう食べちゃダメだってば!聞いてた?」 ヴェイグが準備満タンだったのを気づけなかったマオは少し悔しがったが、これ以上ヴェイグにピーチパイを食べられたくはないので、すぐに手を打った。 「ボクは扉の前にお皿とフォークを持って立ってよう!」 「はっ、出遅れた!俺も!」 ティトレイもさっさとマオの後を追った。 ヴェイグもその後に続き、サレも意地でその後に続いた。 ティトレイはサレに押され、転んでしまった。 ティトレイは怒り、「サレ、てめぇ!」と叫んだが、サレは鼻で笑い、ティトレイをバカにした。 乱闘をしている間際に、扉が開いた。 待ちわびていた特大ピーチパイ食堂の中に入ってくる。 「ピーチパイお待たせ・・・キャア!」 メイドは、最後まで言うこともできず、突っ込んできた3人にビックリして後ろに倒れてしまった。 そしてその肝心の3人は、ピーチパイをすごい形相で食べあっている。 サレは左の腕で、ヴェイグとマオを邪魔する。 しかし、それは食べるスピードを大幅ダウンさせているとはサレは全く気づかない。 3人のフォークが激しくぶつかり合ってしきりにカチカチ鳴る。 「うぉぉぉぉおおお〜!!」 すごい雄叫びを上げるヴェイグとサレ。 そこへマオが誰でも思う正当な突っ込みをする。 「何この二人!?妙に争ってるし!そんなにピーチパイが食べたいの!?」 ・・・聞こえにくかったのは言うまでもない。 「それよりサレはいつでもピーチパイくらい食べれるだろう・・・?」 ユージーンまで冷静な突っ込みを入れる。 本当にもっともな発言だ。 そしてサレのせいで一歩遅れたティトレイは、奮闘する3人を見て、もう入っていけないということが既にわかっていた。 なので、残念だがため息をつきながらみんなと一緒に、三人を呆れながら見ていた。 しかしティトレイは、サレが邪魔をしてこなければ、あの3人と一緒に奮闘していただろうというのに、呆れて見ているというのは・・・。 さすがはティトレイというところだろう。 ティトレイとあの3人以外のみんなは、ピーチパイはあともう1枚とワルトゥから聞いた時点で諦めた。 この3人(本当は4人で、ティトレイも入ると思っていたが。)でたった1枚のピーチパイのために、死闘を繰り広げることは分かっていたからだ。 「・・・ん?何でピーチパイが光っているんだ?」 ヴェイグは口にピーチパイを詰め込みながらささやいた。 ピーチパイが口の中に入っていたので、何を言っているのかは少し分かりにくかったが。 みんなは3人が食い散らかしているピーチパイを見つめた。 なんと、確かにピーチパイは眩い光に包まれていた。 サレがピーチパイを口の中に詰め込んだまま、呟いた。 「本当だ・・・。何で光っているんだ?」 マオまでピーチパイを入れながら言った。 あい変わらず聞き取りにくい声だ。 「二人がピーチパイ食い散らかすから・・・。ピーチパイが怒ったんだよ!」 「(ピーチパイは怒らないよマオ・・・。)とか言ってるマオも・・・十分食い散らかしてるような気もするけど?」 アニーはさっきから思っていたことを苦笑しながらやっと言った。 「ギク!」 マオは精一杯嘘を考えた。 「ア、アニー!それは幻覚だヨ!!」 マオは少年らしいかわいい嘘をついてみたが、やっぱり誰も騙せはしない。 食堂はさっきより明るさを増していた。 なぜなら、ピーチパイの光がピーチパイを食べている3人にも徐々に移ってきたからだ。 その異変にクレアが最初に気づいた。 「あれ?何でいつの間にかヴェイグたちまで光っているの?」 「はっ!」 ヴェイグとサレとマオは自分達が光っているのにピーチパイを、我を忘れるほどの勢いで食べていたので、全く気づかなかった。 そして三人同時に言う。 「%#+☆=〜♪*!?」 「落ち着いて三人とも!雨を降らせてピーチパイごと濡らしますよ!?」 アニーの言葉で三人は喋るのをピタッとやめた。 そしてヒルダは手早くタロットで何かを占い始めた。 「何が出ましたか?ヒルダさん・・・?」 クレアがとても不安気に訊いた。 「私のタロットでは、何処かに飛ばされるって出たわね。」 「Σ(冷静にそういうこと言うなよ!)大変じゃねえか!何とか止める方法はないのかヒルダ!?」 ティトレイはヒルダと正反対で、あたふたし、あちこちを動き回った。 「ないわ。ああなってしまった以上しょうがないわ。でも無事に戻れるかタロットでもわからなかったわよ。」 あまり心配していなさそうにヒルダは言った。 「(だから冷静に言うな!)じゃあ、無事に帰って来れないかもしれねぇじゃなえか!」 「ええ。そうね。」 「・・・そう。(もうツッコむ気も起きねぇ・・・。)」 と二人の会話の中に、ピーチパイをすごい形相で食べている人間が入ってきた。 「ふぁいほうふだふぃほれい。(大丈夫だティトレイ)ふぁんひんふぁからふぁんふぉかなるふぁほう。(3人だからなんとかなるだろう)」 もはや何を言っているのか・・・。 「いや・・・。そのメンバーがとっても不安だから、心配してるんだよヴェイグ・・・。」 とっても不安を強調したティトレイ。 それにサレは黙ってはいない。 「フン!ふぁふふぁほわいってふぃふぃたいふぉかい?(僕が弱いって言いたいのかい?)」 「サレ・・・チームワークが不安だとティトレイは言いたいのだ。」 「ぅ・・・。」 ユージーンが入ってくれ、サレはもう文句を言えなくなってしまった。 そしてみんなが焦っているうちに、ヴェイグ達が完全に、光に覆われてしまった。 ユージーンたちからヴェイグたちは光でもう見えない。 もちろんヴェイグたちからも、自分以外は光で何も見えなくなってしまった。 「クレア?クレア何処だ!?クレア〜〜〜!!みんな〜〜!」 ヴェイグが力一杯叫んだ。 ここでいつもヴェイグを落ち着かせるのはこの人の役目だ。 「ヴェイグさん落ち着いて!今雨を降らせてみます!(クレアさん以外どうでもよさそうですねー・・・。)」 サレは自信たっぷりに言った。 「まぁ僕がいるんだから安心しなよ。」 「だからお前がいるから安心できないんだって!それよりどうする!?」 「待って下さいティトレイさん。今私が!」 次の瞬間、広い食堂にザアアアという雨の音が響き渡った。 しかし、光は何も変わりはしなかった。 床が水浸しになった以外は。 「他に・・・何かないのかしら?」 ヒルダほどではないが、クレアはあくまでも平然を保った。 焦るみんなのところへ、一人の場違いな発言が出た。 「みんな〜〜!行ってくるね!」 マオだった。 「Σ(楽しそうだな!?)怪我するんじゃないぞ!」 ユージーンはマオの保護者として、外へ出かけるような子供への言葉を送った。 「クレア!みんな!!行ってくる!俺が帰るまでクレアを守っといてくれ!みんな!!」 この人もなかなか場違いな発言をした。 「クレアクレアクレア・・・。バカみたい。」 とさり気なくサレをマネしたヒルダ。 「Σそれ僕のセリフだよ!?似合わないよお前には!!」 激しくサレがつっこんだ。 クレアが、まるで小さい弟が初めてお買い物に行く時のような、そんな口調でヴェイグに言った。 「行ってらっしゃいヴェイグ。気をつけてね。」 ティトレイも、もう心配などせずに元気良く光の中へ叫んだ。 「怪我すんなよ!みんな!」 「僕が怪我なんてするはず・・・」 「皆さん!本当に怪我には気をつけてくださいね!」 サレのセリフを打ち消して言ったアニー。 「〜〜〜!まぁいいや。僕が怪我するはず・・・」 とその瞬間、ふっと光が消えた。 あたりに残ったのは、ユージーンたちと、足元の水と、もとあった何も変わらない食堂。 そしてサレの惨めさ。 クレアが小さめに囁いた。 「行っちゃいましたね・・・。」 ティトレイも、ようやく興奮がおさまったらしく、静かに言った。 「ああ。そうだな・・・。」 「サレ・・・、結局何が言いたかったんでしょう・・・?」 と疑問を口にしたアニー。 そこへヒルダが答えた。 「怪我するはずあるだろう、とか言おうとしたんじゃない?」 「そうなんですか〜。」 ユージーンは口には出さず、心の中でつっこんだ。 「(アニー!だまされてるぞ!?)」 |