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バレンタインデー小説3
次の日。

「おはようミント。昨日は良く眠れたかい?」

「はい。疲れがあったせいかぐっすり眠れました。」

ミントは、クレスが自分の作ったチョコを不味いと言ったらどうしよう、手順は間違えていなかったか、などを夜中ずっと考えていたために一睡もできなかった。

しかしクレスの爽やかな笑顔の前ではそんなことは口が裂けても言えなかった。

少し戸惑いもあるが、クレスに心配させたくはないので笑顔で嘘をついてしまった。

「えっと、あの・・・。」

後の手で可愛くラッピングしたチョコレートを、どうにも前に出せなくてもじもじしてしまうミント。

それを見たクレスは妙に勘違いをしてしまったらしい。

ミントを覗き込むように見ながら、心配そうな声を出した。

「どうしたんだい?何処か調子でも悪いんだったら、ちゃんと僕らに言うんだよ?」

ミントは赤面し、手を左右に振りながら違うことを主張した。

「ち、違いますっ。あの・・・その・・・これ・・・よければ食べて下さい!」

さっと後にあった手を前に出したミント。

その手の平の上にあるチョコレートと自分の想いも、クレスの前に出すことに成功した。

「わぁ!嬉しいよミント。ありがとう。大事に食べるね。」

クレスは満面の笑みでミントにお礼を告げた。

「は、はいっ。」

ミントはさらに赤面したトマトのように赤い顔で、元気に返事をした。


その横では、全く違うやり取りがされていた。

「クラースさん、これを。よろしかったら食べてみて下さい。」

「ん?」

クラースは後を向き、その姿がすずだと確認した時に、持っていた本を危うく落としそうになるほど驚いた。

なんせすずから物を貰うなんて初めてのことだし、ましてやチョコレートだ。

しかしクラースはすぐさま我に帰り、差し出されたチョコレートを優しく受け取った。

「ありがとうすず。研究の合間にでも食べさせてもらうよ。」

嬉しそうにチョコレートを受け取るクラースを見ると、すずは安心した。

「それでは。」

すずは珍しく一瞬笑顔を見せて、すぐに去っていった。

そしてクラースは、周囲を見渡すと自分がチョコレートをもらえたわけが理解できた。

もじもじしているミントに、それを心配そうに見ているクレス。

そして・・・

「うるさいな!あげるって言ってるんだから貰っておきなさいよ!!」

「そっちがうるせぇ!お前からのチョコなんて不味いに決まってるだろ!」

「不味いとは何よ!まだ食べてもいないくせに!」

「そんぐらいは誰でもわかることだ。とにかく、それは絶対にいらん!」

怒鳴りあっているアーチェとチェスター、だ。

昨日夜遅くまで本を読んでいたクラースは、調理場から何か物音がしていたことを知っていた。

興味がないので見に行かなかっただけだが、その物音は女性陣がチョコレートを作る音だということを今理解した。

「いいから貰ってよ!昨日頑張って作ったんだから!」

アーチェが必死にチェスターの胸元にチョコレートを突き出す。

「・・・わかったよ、貰ってやる。」

チェスターは全く表情を変えずに突きつけられたチョコレートをアーチェから荒くぶん取った。

「え?貰ってくれるの?」

アーチェの輝いた笑顔を見たチェスターは、こう言った。

「ああ。すぐにゴミ箱ポイだけどな。」

チェスターのははは、という愉快な笑い声が宿の受付の部屋全体に響いた。

そしてアーチェの顔は輝いた希望のある顔から、眉がつりあがった怒りの顔へと急変した。

「何であんたはそうやって素直に受け取れないのよ!馬鹿!もう知らないんだから!」

アーチェは踵を返して目に手をあてながら、部屋へ走り出した。

その目には一滴の涙が浮かんでいた。

チェスターの顔からは笑いが消えた。

そしてすぐにさっきアーチェから貰ったチョコレートの包みの中に乱暴に手を入れ、チョコレートを雑に取り出した。

「おーい!馬鹿女!」

部屋に入ろうと、アーチェがドアノブに手をかけたとたんにチェスターは叫んだ。

アーチェは振り向きざまに言った。

「何よ、馬鹿男。」

アーチェが目を向けたその先には、自分お手製のチョコレートのひとつが、チェスターの手の中に入っては宙に浮くということを繰り返していた。

そして、アーチェが見たことを確認したチェスターは、今度は一段とチョコレートを高く上げ、口の中に放り込んだ。

・・・しばし沈黙が続く。

すでに他の2人はチョコレートを渡し終わり、すずは部屋へ帰り、ミントはまだクレスの傍にいた。

さっきまで話していた2人と、歩いていたクラースの3人までチェスターに注目している。

「・・・・・・!」

「・・・どお?」

「・・・・・・・・・。」

「・・・不味っ!!」

「えぇ〜!?」

チェスターを興味深く見ていた3人は、期待はずれさに思わず脱力した。

チェスターはあまりの不味さにトイレへ急行した。


そして戻ってきての一声。

「というか何だ?この気色悪い食感は?中にとてつもなくありえないものが入ってないか?」

チェスターがすごい気分が悪そうに言ったので、アーチェは困ったような顔をした。

「何で?何も変なもの入ってないよ?美味しくなりそうだから酢昆布を入れただけ・・・。」

チェスターは思わず吹き出した。

それはチェスターばかりではなく、ミントと言った本人以外の全員が。

「おまっ・・・俺を殺す気かぁ!?」

アーチェの酢昆布発言は、見事チェスターに精神的ダメージのクリティカルを負わせた。

「え〜!?美味しいはずだよ。だって酢昆布だもん!!」

「酢昆布だから不味いんだこのアホ!!!」

「・・・行こうかミント。」

クレスは呆れた顔をしてミントの一歩手前へ出た。

「はい。行きましょう。」

ミントも同意し、二人は外へ出て行った。

クラースも足早に部屋へ戻った。

取り残された二人だが、それに全く気付かずにそれから数時間言い争った。




〜おまけ〜


「ミント、甘みがあっておいしかったよ、あのチョコレート。」

「え?あ、嬉しいです。不味いって言われたらどうしようかと・・・。」

「そんなことないよ。本当にとっても美味しかった。また作ってくれたらなぁ・・・はは。」

「はい!喜んで作らせてもらいます。」


「すず、先日貰ったチョコレート、頂いたぞ。」

「・・・どうでした?」

「うむ。おいしかったぞ。私は甘いのより苦いのが好きでな。ちょうど良い苦さでなかなか美味だった。」

「そうですか。ありがとうございます。」

「またよければ作ってくれ。」

「はい。わかりました。」

「ところですず。あのチョコレートは、ミントは甘い、すずのは苦い、そしてアーチェは不味い。最初からそういう設定だったのか?」

「いえ。全くにして違います。皆さん美味しいといわれることを目指していました。」

「そうか。・・・アーチェただ一人報われなかったな・・・。」


「最後にもう一度訊く。何故酢昆布を入れた?アーチェ。」

「え?美味しそうだったから。」

「やっぱそれかよ!」

「え?だって〜。」

「・・・何で不味いって言われても美味しいと疑わないんだよ。もう一生訊かん・・・。この馬鹿女・・・。」